淫靡な蒼い月
歪んだ掌
「久し振りですね」
あたしの背中を掌で撫でながら、彼が言った。
「仕事が忙しくて……こってますか?」
アジアンチックな内装の、そんなに広くない部屋の寝台に横たわって、あたしは少し遠慮がちにそう尋ねた。
「ええ、肩と背中の筋肉が張ってます。首も硬い。頭、痛くないですか?」
「頭痛薬が手放せません……」
若干情けない色をつけて、そう舌に言葉を乗せると、彼の掌が、くすりと笑った。
「仕方ないですね。でも、駄目ですよ。ああいう類いはそのうち、耐性がついて効かなくなりますから」
「はい……」
彼の大きくて暖かな掌が、首元から肩先へと滑る。
「今日は全体的にほぐしておきましょう」
そう言うと、彼の掌に圧がかかり、あたしは思わず呻いた。
「痛いです?」
「いえ」
――違う。
痛くて声を出したんじゃない。
その掌が触れた場所が、際どかっただけ。
心を侵食されるような掌が、好き。
一時間にも満たないこの時の中、あたしは閉じたまぶたの裏で、歪んだ欲望にとらわれる。
彼の掌が腰を押し、指で筋肉を揉みほぐす。
アブナイ部分がジワリと熱を持った。
――違う。本当に触れてほしいのは、そこじ
痰ネい。
脇と寝台の間へと、その掌を忍ばせて、熱い柔肌を、味わってほしい。
そしてあたしにも、彼を味合わせてほしい。
「緊張してます?」
「えっ、大丈夫です」
背中を撫で続ける掌に妄想しているところへ、突然、そう声をかけられ、必要以上の大声になり、頬に朱がさす。
羞恥の極み――
と
「逢いたかった」
彼の掌が突然、望むべき場所へと伸びた。
「ずっと、待っていたんですよ……。あなたが、来てくれるのを」
優しい声色とは裏腹に、掌は激しく柔肌を揉みしだく。
「僕のも触って――」
彼の掌が、あたしの小さな掌を導いた。
そこには、互いに長い間、歪んでいた欲望の熱い塊が、あった――。