淫靡な蒼い月
電話BOX
キュッと、また、音がした。
厚いガラスに付く、あなたの指の跡――。
その下端から、滴が一筋、はい落ちてゆく。
今度はガタンと音がした。
わたしの肩が、金属製の柱にぶつかった音。
狭く四角い空間で、なぜかわたしたちは、濃密に唇を重ねている。
別に、ここじゃなくてもいいのに。
外は雨。
しっとりと、しかし絶え間なく降り続いている。
人気のない道に、ひっそりと建つ電話BOX
わたしたちの発する吐息で、ガラスが曇っていく。
吐息のカーテンだ。
彼の唇が、耐えられないと言わんばかりにわたしの首筋をはい、わたしは思わず声をあげた。
だけど、これ以上はここじゃ無理。
だけど、まだしばらくは、このカーテンに隠されていたい。
何だか、とても、ロマンチックな気持ち。
まるで、世間から隔離されたような、そんな小さな空間。
ここでしか自由でいられない。
まるで、金魚鉢の中の金魚みたいな恋だけど、いまだけはこのカーテンに包まれて、唇を重ねていたい。