淫靡な蒼い月

旋律



長く、美しい指が、今夜もわたしを犯す。


力を入れた指先で、白い布を縫うように這い、緩やかな稜線の先端へとたどり着く。


まだ、白い衣の上だと言うのに、その指先からはまるで電気でも発せられているかのよう。


普段は鍵盤の上を滑る指


緩やかに、たおやかに、旋律を奏でる。


「きみは覚えがいいね」


それがあなたの決まり文句。


ねぇ、わたしがピアノを習い続けている理由は――その指なの。


その指で、そう、今夜、わたしをピアノにして。


「あ――」


あなたの指が、『ド』を押した。


「ん――」


次は『レ』


そして『ミ』――。


「何? もうこんなに乱れて……。はしたないね」


「あ――」


あなたの指が、和音を奏で、歌まで歌い出す、


――弾き語りなんて……初めて……。


四方を囲む黒くて短い脚。


その枠の外には、たくさんの楽譜がわたしな服と共に舞っている。


やがて、たっぷりと、その指でわたしを楽しんだ彼が、ささやいた。


「さぁ、そろそろフィナーレだ」


クライマックスへと、緩やかに力強く盛り上がる旋律が始まる。


「あ、あ――」


わたしをピアノにして、彼が激しく奏でる音がする。


『ソ』『ファ』
『シ』――


今夜も、あなたの指がわたしを犯す。


指――


それは、あなたの全て――。


二度と感覚の通わぬ二本の脚の分も、力強く、わたしを犯して――。


永遠に、わたしはあなたのピアノ――


旋律を奏でて……。




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