淫靡な蒼い月
漆黒の密室
彼女の白く長い脚が、後部座席の背もたれから現れる。
まるで、白蛇のように静かに。
俺は、それを満足気に、ルームミラーで確認した。
まるで、もう一つの肌の如く密着している黒のタイトなワンピース。
さっきまで、聡明な顔で俺の息子に勉強を教えていた――彼女。
「お待たせ」
しかし今は、するりとしなやかに身体を移動させ、俺の耳元でそう、ささやいている。
適当に駐車した、地下のパーキング。
紅いマニキュアを塗った彼女の長い爪と指が、俺の首に絡み付いた。
「きて――」
耳元にかかる吐息が教える――
“待てない”
妻の目を盗み、“家庭教師”という、少し淫靡で、しかし、正当な肩書きを彼女に与え、堂々と家に迎え入れた俺。
「家まで送ってくるよ」
最もらしい言い訳の下、俺たちは今夜も身体を交わす。
決して広くはない漆黒の密室で繰り返す裏切りの情事
シートの上で彼女が必死に声を堪え、俺の首に腕を回す。
しかし
唇の痕も、爪の痕も、決して残してはならない。
香水すら禁じている禁断の関係。
それだけに、燃える。
俺が、無垢な少女から妖艶な美女へと育てた。
今夜も暗く狭いこの空間で、その背中の黒い羽根を美しく、むしってしまおう。
決して俺から逃れられなくするために――。