淫靡な蒼い月
愛人


柔らかな唇


そっと押し包んで吸い上げて、舌を入れた。


小さな舌が絡み付いてくる。


必死なぎこちなさに、愛しさが増した。


食事に睡眠薬を混入して連れ込んだホテル


広いベッドの上で、俺は「なにもしない」と言ったばかりの彼女を抱こうとしている。


乳房を愛撫する。


抵抗はない。


本当はもっと乱暴に、サディスティックに犯す計画だった。


なぜならこの女は――


“俺ら家族から母親を奪った男の娘”


だけど、眠りながらうわ言のように父親を呼んでは苦しそうに嘆く姿に、荒々しい憎悪が、まるで浄化されるように消えていった。


代わりに芽生えたのは“いとおしさ”


俺は彼女を優しく揺り起こすと、自分が何者であるかを告げた。


さっきまで憎んでいたことも、犯すつもりでいたことも――


甘い吐息の中、彼女の細い指に指を絡める。


彼女は、そんな卑怯な俺をあっさり受け入れ


また、泣いた。


「ごめんなさい」


と、何度も何度も――


苦しかったのは自分達だけじゃなかった。


そう思った瞬間、たまらなく欲しくなった。


白い肌に舌を這わせ、柔らかな膨らみに顔を埋める。


溢れ出す甘い蜜を指に絡めた後、直接舌で味わった。


乱舞する肢体に、体が粟立つ。


もっと、もっと見たい、触れたい。


制服に隠されている秘密


同じ苦しみを分かち合う者


凄く近く感じる。


母親を奪われた男と父親を失った女


その喪失感と絶望が、俺たちの中でシンクロしている。


判るから愛しい。


判るからもっと側にいたい。


これが“愛”――?


“同情”――?


どっちでもいい。


背中に回された掌が、熱く湿っている。


結ばれた場所が放つ大人の音色


きっと、どこかで俺の母親と彼女の父親も――


今頃――


俺はたまらず、彼女の名を呼んだ。


そして、激しく口づけた。


始まりなんてどうでもいい。


愛しいと感じるこの瞬間を大切にしよう。


例え、周囲から反対されても認めてもらえなくても――


花弁に包まれ、薔薇の香りに酔う。


瞬間――


姿を消した二人の気持ちが少しだけ、判った気がした。


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