淫靡な蒼い月
キッチン


トントントン。


包丁が規則正しくリズムを刻む。


右隣では、コトコトと小さなお鍋が音をたてている。


アパートの小さなキッチンで、あたしは彼のためにこうして毎晩、夕食を作る。


両親が長期出張でアパートでの独り暮らしをしてる不良で腐れ縁の同級生。


いつしか、そんな彼のためにここで夕食を作るようになり、ぎこちなかった包丁使いもすっかり上達した。


でも“彼女”じゃない。


ただの“腐れ縁”。


お鍋が吹きそうになり、あたしは火を止めた。


すると、いきなり背後から長い腕が伸び、腰に絡まりついた。


「飯、まだ?」


高校生のくせにタバコの香り。


耳朶に寄せられた唇から発せられる、ちょっと掠れた声。


尾てい骨に当たる、硬い塊。


「もう、すぐ……」


耳朶を甘く噛まれてあたしも声が掠れた。


腰に絡まりついていた指が、あっさり胸へ移動し、力強く抱き締められ、腰から力が抜ける。


包丁を握ったままの手が、小さな恐怖と好奇心で震えた。


「すげぇ、腹、減ってんだけど」


「ごめん……」


首筋に舌を這わせながらささやかれ、思わず吐息が漏れた。


胸元で組まれていた両手がゆっくり指を回し、服の上から転がし始める。


「――先に、お前、食ってもいいだろ?」


彼の指で、既に返事できなくなっているあたしを、彼が抱き上げ、ベッドに連れていく。


あたしはしっかりと彼の首に腕を回し、彼の唇の感触を自分の唇で味わった。


――実はずっと、この時を待っていた。


こんな風に結ばれるのを夢見てた。


ベッドに二人で沈んで、すぐに熱が発生する。


あたしは自分でも初めて耳にする自分の甘い声に、そしてその声で荒さを増す彼の息遣いに酔った。


体から始まってもいいじゃない。


お互いのことなら、もう知ってる。


彼とあたしが本当は、半分血が繋がっているという事実。


それをまだ彼が知らないという事実。


でも、構わない。


タバコくさい息に飲み込まれる。


掌に、指に未知の世界へと導かれる。


好きよ。


大好き。


永遠に離れられない絆が、更に深さを増す。


もっと、強く、深く、あたしを傷つけて。


壊して。


愛してる。


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