淫靡な蒼い月
胎児の記憶


ほしい。


ほしいほしいほしい。


バックルを外す金属音に、肌がピリピリと粟立つ。


はやく


はやくはやくはやく


人気のなくなった教室


薄暗いその場所で


アタシは、自分から彼の腰にしがみつき、キスもしないで学生服のベルトに指をかけた。


彼は、されるがまま、壁に背中を預け、暮れてゆく窓の外を眺めている。


カチャリとバックルが外れ、アタシは勢いよくジッパーをおろし、黒のボクサーパンツ越しにそれを見た。


“ほしい”


それも、そう言っている。


やがて、彼の長い指が、グシャグシャとアタシの髪を乱暴にかき混ぜ始めた。


頭上から降る、甘い吐息


また、粟立つ。


甘い声


また、粟立つ。


ほしいほしいほしい


肌がヒリヒリする。


はやくはやくはやく


その声が、すき。


聴きたい聴きたい聴かせて。


見上げると、上向いた顎と、そそりたつ喉仏。


やっぱりすき。


だめって言われても


いけないって判っていても


だって――


こんなに熱くなってる


お互いに


いーじゃない。すきなんだもん。


“ここ”を誰にも渡したくないの。


双子だって構わないじゃない。


生まれる前から、見ていたはずなんだから。


ずっと、アタシだけのものだったんだから――


きっと、胎児の頃から――。

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