イノセント・ラヴァー *もう一度、キミと*
(やった、知らない!)


拓海は、平積みしてある絵本が気になったのか、あたしの手を振りほどいて歩き出した。

拓海の歩き方だと、すぐそこの本棚にすら、たどり着くのにも時間がかかる。

その普通じゃない歩き方を見て、入江圭輔はぎょっとした表情を浮かべた。

困ったように拓海から目をそらして、あたしを見る。


(――間違いない。

この人は拓海を知らない)


”今”の入江圭輔は、拓海を知らない。


だとしたら……


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絵本を買って本屋を出たあたしは、拓海をもう一度自転車に乗せた。

できるだけ目指すマンションの近くまで行く。


できれば秘密の場所に行きたかった。

でも、拓海は飛び石なんか渡れないだろうし、抱えて行くのも大変。

なにより、過去へ飛んでから、寒いなか拓海をたくさん歩かせるのは大変だからね。
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