イノセント・ラヴァー *もう一度、キミと*
……必死で自分を戒めても。

一度流れだした涙は、どうしても止められなかった。



(あたしの、拓海――)


障害を抱えて、二言三言しか話せない子だったけど。

いつも澄んだ目であたしを見上げて「ママ」と呼んだ、あたしの拓海――


重たい体を毎日自転車の座席に抱え上げた、あの感触もリアルにこの手に残っているのに。


(あたしの拓海は、あの拓海は、もういないんだね――)


いまや、もうあたしの心の中だけにしかいない、あたしの拓海。

時空のはざまに消えてしまった、あの子の生きた時間。あの子の存在。


――これでいい。


これでいいけど……



……胸が、痛い。
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