イノセント・ラヴァー *もう一度、キミと*
どこへ行くあてもないまま、自転車にまたがろうとして、ふと気付いた。

……あたしの自転車に、子供用の椅子がついてない。


(さっき軽く感じたのはこのせい?)


ぎょっとして、自転車を思わず突き飛ばすと、自転車はガッシャーンと大きな音を立てて倒れた。

ガラガラガラーと車輪だけがむなしく回る。

そんな自転車はとてもみじめで、まるで死にかけた虫か何かのように見えた。

手の震えが止まらない。


――拓海の存在が、霧のように消えてしまった。


あたしはどうやら、とんでもないことをしてしまったらしい。


(何てことをしちゃったの? あたしは――)


涙が出てきそうになるのを何とかこらえる。

泣いても仕方ない。


(何としてでも取り戻さなきゃ。

何としてでも)


あたしの拓海を。
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