六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】
そう、俺は長年、あの声のいいなりになってきた。
そうしてきて、間違いはなかったはず。
……これまでは。
ああ、しかし。
見透かされてしまった。
俺が、忘れてはならぬものを、
本当は捨てたいと思っている事を。
これさえなければ。
これさえ、なければ。
俺が生きていくこともかなわない。
だけど、まりあを傷つけることもないのに。
頭を過ぎっていくのは、
傷ついた両親の姿。
伊奈孝太郎の怒り。
共に戦った、何も知らない清良や太一のマヌケな顔。
そして……。
自分は夢見姫なんかじゃないと言いながら、
仲間を助けるために、危険を顧みない彼女の姿。
本当はいつも泣きたくて、
誰かに代わってほしくてたまらないのに。
皆の前では静かに笑う、小さな顔。