六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】


そう、俺は長年、あの声のいいなりになってきた。


そうしてきて、間違いはなかったはず。


……これまでは。


ああ、しかし。


見透かされてしまった。


俺が、忘れてはならぬものを、

本当は捨てたいと思っている事を。


これさえなければ。


これさえ、なければ。


俺が生きていくこともかなわない。


だけど、まりあを傷つけることもないのに。




頭を過ぎっていくのは、


傷ついた両親の姿。


伊奈孝太郎の怒り。


共に戦った、何も知らない清良や太一のマヌケな顔。



そして……。



自分は夢見姫なんかじゃないと言いながら、

仲間を助けるために、危険を顧みない彼女の姿。


本当はいつも泣きたくて、

誰かに代わってほしくてたまらないのに。


皆の前では静かに笑う、小さな顔。


< 437 / 691 >

この作品をシェア

pagetop