シャクジの森で〜青龍の涙〜
眠る町。

窓も戸も固く閉じられた部屋の中、燭台の上に蝋燭が一本だけ点される。

燃える小さな灯は、三人の姿をぼんやりと照らし出した。

皆フード付きの長衣を身に纏っていて、互いの表情をうかがい知ることは出来ない。


ジジジ・・ジジ・・と、蝋燭の燃える小さな音までもが聞こえるほどにシンと静まった空気は、息が詰まるほどの密やかな雰囲気が漂っている。

誰もが神妙な気を纏い、各々の唇は固く閉ざされ、集まってかなりの時が経つのに未だ誰も言葉を発していなかった。


小さな家具が二つ程しか置かれていないこの部屋の壁には、炎に照らされた影が二つ、重なるように大きく映る。

二人は部屋に来てからずっと、真ん中ほどに置かれたテーブルの上にある物を、額を寄せ合うようにしてじっと見つめているのだった。

やがて何の前触れもなく光を放ち始めたそれを、しわ深く枯れた細い手が、震えながらもふわりと一撫でした。

蝋燭の灯を打ち負かすほどに放たれる光は白っぽく、歪んだ薄い唇とギラギラと光る瞳を不気味に照らした。




「おお・・これは。どうぞ、見なされ」



しばらくして発せられた声は、小さいながらも大きな歓喜に満ちていた。

その導きに、一緒に覗いていたもう一人は更に身を乗り出して確認すると、恐る恐る長い指をのせる。

その表情には、喜びと憂いと安堵とが混じった複雑な笑みが浮かぶ。

その唇から、張りのある声が出され呟きを漏らした。



「・・・ようやく、時が来た」

「その通りです。お分かりですな?今しか、ありませんぞ」



若く瑞々しいその声の持ち主は大きく頷き、傍らに置いてあった包みを手に取ると、願いを込めるように胸に抱き天を仰いだ。

暫くの間瞳を閉じている様子は、深い思考の中にいるよう。



「この時を待っていた、ずっと・・・」



長かった時を確認するようにしみじみと出された声は、どこか哀しげにも聞こえる。



「そうです。今こそ、決意するべき時ですぞ」



しゃがれた声が更に後押しをすると、閉じていた瞼が開かれ、真剣な眼差しが遠くを見るようにスゥ・・と細くなった。

その瞳が、二人以外のもう一人に向けられる。

と、その者は、スッとその場に跪いた。



「さぁ、これを・・・」


「はい。何があっても・・命に代えましても、きっと必ず」



渡された物を懐に仕舞い、決意に満ちた瞳で二人を交互に見たあとに身を翻して部屋を出、夜の闇へと消えていった。
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