シャクジの森で〜青龍の涙〜
そう。

アランは異国の視察で、しかも山積みの問題が見つかってしまって、とても疲れてヘトヘトになって帰ってくるのだ。

お出掛けするからと身支度をして、ぼんやりと椅子に座って待ってるだけの自分とは違う。

いつもいつも重い責務を負って政務に勤しんでいる王子様。

そのアランが、この国での最後のお仕事を終えて帰ってくるのだ。

妻として“お疲れ様でした”と言って、精一杯に労わないといけないと思う。



「わたしに出来ることは、笑顔でおむかえすることだわ」



次の国に行くまでの間、少しでも多く、気を抜いてもらいたい。

それに、アランは遅れてしまったことを大層気に病んでるはずだ。

それを払しょくしてもらうためにも、とびきりの笑顔で迎えなければ。

がっかりと沈んだ態度なんて、絶対見せちゃ駄目なのだ。



「そうだわ。笑顔の練習をしておこうかしら。あ・・・でも、その前に灯りをつけないと―――」



空に浮かぶ月が部屋の中を照らしてくれているけれど、日はとうに沈んでしまってとても暗い。

これでは、ますます寂しい気分を盛り上げてしまうし、実際問題困る。

いつもなら日が沈み始めた頃にメイが点しにくるのだけれど、今日は余程忙しいのだろう、ちっとも来ない。


廊下にいるシリウスに頼んでも良いのだけれど、このくらいは自分でしなければと、とりあえず、エミリーはベッド上の灯りに手を伸ばした。

けれど――――



「・・・これは、どうやったら、点くのかしら??」



アランはいつも、何かをカチッとさせて簡単に点けたり灯を弱くさせたりしている。

その、カチッとさせる部分がよく分からない。

手探りをしていると、不意に、ノック音が響いた。

待ち望んでいた音のはずなのに、一瞬動きが止まってしまう。



「あ、アラン様!?」



―――帰って来たわ!


胸が一気に高揚して自然に笑みが零れる。

練習する必要なんてなかったことに気付いて、さらに笑ってしまう。


わたわたとベッドから降りて弾む気持でドレスをチェックして、姿が見えたらすぐにお迎えができるよう姿勢を整えた。

部屋の中は暗いままだけれど、アランが点けてくれた瞬間には最高の笑顔でいなければ。

そして、お疲れさまでした、って言うのだ。



『エミリー様、メイです。失礼します』
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