シャクジの森で〜青龍の涙〜
エピローグ
「エミリー様、お忘れ物は御座いませんか?」



メイが心配そうに確認をしてくる。



「大丈夫よ、メイ。忘れてはいけないものは、昨夜の内に、きちんと手持ち鞄の中に入れてあるもの」



何度も繰り返しているこの会話。

いつもの手持ち鞄を指し示して、エミリーはちょっぴり苦笑いをする。



「エミリー様、私心配ですわ。お世話が出来ないなんて・・・いいのですか。私達、付いて行きましょうか」

「平気よ、ナミ。実は、わたし、一人で何でもできるのだから」



涙目のナミを宥めるのも、これで、何度目だろうか。



「少しの間だけだもの。すぐに帰ってくるわ。だって、アラン様が忙しいもの」

「そう、そうなんですけど。でも、エミリー様、やっぱり寂しいです~、シャルル様もいなくなるなんて~!」



メイの表情がへにゃぁと崩れ、エミリーに抱きついている。



アランの塔、3階。

正室の部屋の中は、朝早くから、ちょっとした騒ぎになっていた。


少し大きめの四角い旅行鞄が一つ、シャルルの籠、そして大きな手提げ袋。


準備万端整えられたそれらは、ある場所に出向くために用意されたもの。

行く先は、もちろん、他国。

けれど、メイたちがついていけないところ。



「私達、平気です!きっと、大丈夫です!ウォルター様も行かれるのですから!」



従たる者、ご主人様が行かれる所どこまでも付いて行くのが使命なのです!

そう言って、最後まで付いて行くと抗っていたメイたちは、エミリーの一言で口を噤んだのだった。



「でもね、アラン様が行くだけでも、大変なのよ?」



色んな意味を込めて言ったつもりのこの言葉。


え・・・・と言ったまま絶句したメイたちの顔が、一気に青ざめていったのだった。

どんなことを想像したのだろうか。




「エミリー、支度は出来たか?」

「はい。アラン様」

「ん、3日ほどだが、随分と荷があるな・・・この袋は何だ?」

「これは、国王夫妻様から“先へ土産に”と渡されたものです」

「父君達が?」



そう言って中身を確認するアランの眉が、だんだん寄っていく。


茶目っ気たっぷりの国王の用意したもの。

なんとなく、想像がつく。



「ま、良いか・・・ウォルター、頼む」

「承知しました。荷はこれで全部ですね」



ウォルターとシリウスがテキパキと荷物を運んで行く。

エミリーもアランと一緒に下まで降りた。
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