シャクジの森で〜青龍の涙〜
何をどう覚悟して来たのだろうか。

スッと背筋を伸ばしてきちんと座っているパトリックは、やけに改まった感じで、ブルーの瞳は真摯な色を含んでサリーをしっかりと見つめ、テーブルの上に置かれた両手はしっかりと組まれていた。

それは黙って聞いてくれるような姿勢ではあるけれど、あまりにも真剣な感じで、これでは話しやすい雰囲気というよりも却って緊張してしまう。

サリーが話したい事は、確かに真面目な内容ではあるけれど。



「あ、えーと・・・あの、さ・・・。私、実はさ、3日前くらいに、店の前で人が倒れてるのを見つけたんだ」

「っ―――人が?それは、本当かい?サリー・・・あー・・いや、ちょっと待ってくれ。そうか、そういう話なのか―――」



そう言って俯いたパトリックの唇からため息が漏れて、その後僅かに動いた。

どうやら何かを呟いたよう。



「あの、ねぇ、ちょっと?やっぱり何か問題あるのかい?・・その人、今、2階の部屋で寝てるんだけどさ・・・」

「あぁ、すまない。そうだな。いろいろと問題はあるが・・・サリー、発見した時から順を追って話してくれるかい?」



俯いていた顔を上げたパトリックの瞳は、さっきまでとは違う真剣さを帯びていた。

そう。それは、一人の男のものではなく、兵士長官としてのそれだった。



サリーは、がらりと変わった雰囲気を不思議に思いながらも、早朝に発見したことから今までのことを話して聞かせた。



「―――で、その者は、未だに目を覚まさないんだね?」

「そうなんだ。医者が言うには、怪我は大したことはないって。でも、体の疲労がすごいらしくてさ。何処から来たのかもわからないし・・・。警備に届けるのも、なんだか不憫に思えてさ。どうしたものかと思ってて―――」

「ふむ・・・2階に上がっても、いいかい?」



す・・と人差し指を立てて上を指し示すパトリックを見、サリーは急いで立ちあがった。


「あぁ、どうぞ―――」と言ったその身体がパトリックの腕に掴まる。

後ろからすっぽりと優しい腕に包まれて、収まっていたはずのサリーの心臓が活発に働き始める。

しかも、髪に口づけをされているようで、リップ音が2度も聞こえてきた。


「ぁ・・な・・」


パニックになりかけたサリーの耳に、穏やかな囁き声が届く。



「君は、何も不安に思わなくていい。さぁ、案内してくれるかい?」



それはとても甘い響きを含んでいるけれど、包み込んでくれる腕は力強くて、とても安心できるものだった。

サリーの感じていた不安感を一気に払拭してくれ、警備よりも誰よりも、最初にこの方に話して良かった、と心底思ったのだった。



「どうぞ・・・こっちに―――」


2階に上がり一通りの状況を確認したパトリックは、一思案の後

「明日、兵士がここに来ることになるが、君は心配せずに私に任せてくれ」

と言葉を残し、屋敷へと帰って行った。
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