シャクジの森で〜青龍の涙〜
カランコロン・・・

まったりとベルの音が響き、色鮮やかな扉が開かれる。

市場通り、西通りの隅の方にある、一風変わった風貌の店。

瀟洒な作りの店構えの多いこの通りの中で、パステルカラーに彩られており一際目立つのが“手作りマーブルケーキとコーヒー”で有名な店『喫茶、空のアトリエ』だ。

風貌はなんとも変わっているけれど、ここのケーキを求めて遠方から買い求めにくる客がキリなしに来るという、西通り切っての人気店である。


ここの主人兼パティシエのサリーは、いつもの通り、朝早くに店の前を掃除するべく外に出てきた。

朝焼けの残る空を仰ぎ見て「うーん、今日もいい天気だねぇ・・」と呟くと、気分良く鼻歌を歌い始める。

冬の間はせっせと雪掻きに勤しんだ道も、今はもう建物の影に少し残る程度になってて、ここのところは箒で掃くだけで綺麗になるのが何とも嬉しい。



「もうそろそろ、鉢植えたちも外に出せるねぇ」



そう言ってニコニコと笑む表情は、嬉しげだ。

機嫌良く店の前を箒で掃き始めた手をピタリと止め、サリーはある物を注視した。


道の真ん中にある、あれは一体何だろうか・・・。

あんな大きな物を、誰があそこに置いたのだろう。


何だか嫌な予感がして、ごくりと息を飲み、箒を持ったまま、ぼろ布の塊に見えるそれにソロリソロリと近付いていった。

近付くにつれ見えてくるのはどう考えても人のよう。

人形じゃ、ないだろうね・・・そう考えつつ、箒の柄でつんつんと突いてみれば感触は人の体だった。

注意深くよく見てみれば、あちこち切り傷だらけで、泥だと見えた衣の汚れも血の部分があった。



「ちょ・・・ちょっと、アンタ!?・・どうしたのさ」



考えずに出た言葉は、意識のない相手に向けるそれではなく。

滅多にないことに遭遇し、サリーの心の中は嵐の直中に放り込まれたかのよう。

生きてるのか死んでるのか、その人は呼び掛けてもピクリとも動かない。



「何だってこんな・・・」



ハッと我に帰り、サリーはすぐさま店に引き返して叫んだ。



「ねぇ、スミフ!スミフ!起きてるかい!?ちょっと来ておくれよ!大変なんだよ!」


「あぁ?朝早くから何だ・・・一体何事だ・・・」



寝ぼけ眼を擦りつつノソノソと出てきたスミフに、サリーは外で見たことを話すが、慌てているせいかちっとも要領を得ない。



「あぁもう!いいから、ほら!とにかく、早く来ておくれよ!」



半ば強引にスミフを引張り、外へ連れて行くと、スミフの寝ぼけまなこがどんどん見開かれ、ぼろ布の場所に一目散に駆け寄った。



「おい!お前!生きてるか―――・・・」
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