死神少年
“受けざる終えなくなる”


奴の言葉は頭の中で浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
単に揺すぶりをかけてきているだけかもしれない。

だけど、あいつのあの自信に満ちた顔が俺のそんな考えを退ける。


まあ、うじうじ考えていても仕方ない。 奴もいなくなった事だし、何より姉さんを待たせている。


俺は軽く小走りで姉さんの病室へ向かう。


病室の前まで来ると叔母さん、つまり姉さんの母親にあたる人物だが、彼女とバッタリと鉢合わせをした。


叔母さんは元雑誌モデルで引退後もその美しさに衰えはない。

性格も温厚な人でその上家庭的と言うのだから、男からしたら理想的な女性像だ。


まったく、母さんとは大違いだ。同じ親から生まれたとは到底思えない。


そんな叔母さんだから喋る時は親戚とは言え、何となく敬語で話してしまう。



「入らないんですか?」



俺は何やら先ほどから中々病室に入ろうとしない叔母さんを見かねて尋ねる。


だがよく見ると、叔母さんの目は赤く腫れていて、そこからは尚も涙が滴っていた。

その瞬間俺は言葉を失った。


だってそれは俺が今まで生きてきた15年間の中で、叔母さんが俺に見せた最初の涙だったから。



「……音穏くん」

「はい」

「時間……空いてる?」

「はい」

「あのね、話したいことがあるの、いい?」

「はい」



俺はまるで隊長か何かに「整列!」と言われて姿勢を正す下っぱの兵隊みたいにピシッととした姿勢で答えた。

予期せぬ事態に、緊張感を感じていた。



「ここじゃなんだし、下に行かない? ジュースでもおごるからさ」

「はい」



そう言って俺と叔母さんは一階の入口の左隣りにある休憩所に向かい、叔母さんが腰掛けに腰を下ろすと、俺はその前にある自動販売機に500円硬貨を入れながら「何がいいですか?」と尋ねる。



「お茶でいいわ」



俺はあまり見慣れない緑茶の缶の釦を押す。
続いて、見ていて何となく飲みたくなったコーラの釦を押す。


お釣りとお茶を渡すと、叔母さんは真っ先に缶を開けて中身を一気に飲み干した。



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