新撰組のヒミツ 弐
「休むで、勿論。一日休めば十分や」

「……分かった。明日のこと、土方副長に報告してくるよ」


そう言って光は山崎を残して自室を出る。戸を閉めるときに一瞬部屋の中に視線を走らせると、山崎の真剣な横顔を見えた。


──あの様子では、頭まで休めるつもりなどないのだろう。


雪は既に止んでいた。薄墨の雲の隙間から黄金の光が降り注ぎ、真白の庭を照らしていた。


「参ったな……」
そう言う光は、目を細めて微笑んでいた。





翌日の晩、夜の京はまだ雪が残っているにも関わらず、意外にも賑やかだった。

光と山崎は数人の仲間を連れ、街はずれにある店に来ていた。仲間には店周辺の調査に当たるようにと告げた。


手筈を淡々と説明する山崎は、監察の顔をしていた。


「両方捕まってはたまらないから二手に分かれる。俺が部屋の付近まで行く。お前は裏から。気付かれた時点で離脱しろ」
「はい」

「……気ィ付けや、光」
一瞬、その目の冷たさが解けて親しみを感じるものに戻った。


「……うん。烝も気を付けて」


彼が頷いたのを見て、光はそっと部屋を出ていった。店の廊下を歩きつつ、ざわついた気持ちを落ち着けようと息を吐いた。


周囲を確認すると、店の裏口に周り、一番奥の部屋の近くまで来た。気配を殺し、感覚を研ぎ澄ませると、微かに話し声が聞こえてきた。


「……どなのか」
「おそらく……の半数……」


(──少し距離があるな。聞きとり辛い)


「……武器は京にいる……の……」
「……の四条だ」
「ああ……計画を……ならない」
「それは……過激派が……」


「お前らは馬鹿じゃ!」


突然、部屋の中から罵声が上がると、彼らは水を打ったように静まり返った。


「勝手なことを……わしらの大義は何じゃ? こいつの口車に乗せられてはいけん」

(仲間割れ、か?)


「随分な言い様だな」

「その計画は、わしらの首を絞めるだけじゃと言うとる」

「ふん……得意の逃げが骨身にまで染みてしまったらしい。貴方は穏健派とは名ばかりの臆病者にすぎん」


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