新撰組のヒミツ 弐
そこまで考えて、光は自分の考えを鼻で笑う。


(馬鹿な。そのようなこと出来るはずもない。『何故知っているのか』と問われて『未来の人間だから』とでも答えるのか? 或いは、現状を混乱させる間者の嫌疑がかけられるのがオチだ)


私は、私の親しい人をただ守り抜けばいい。そう、ただ自分が強くありさえすれば、この大きな時代の奔流も、きっと乗り越えられるだろう。


しばらくすると、部屋に山崎が入ってきた。光は間を置かず、勢い込んで尋ねる。


「烝は屯所で待機?」
「ああ」
「……そっか」


良かった、という言葉を呑み込んだ。彼の代わりに戦闘の場に赴く隊士がいるというのに、自分は身勝手な感情を抱いてしまう。


──どうか、卑怯な自分を許してほしい。光は答えを知った上で黙っている。そして、山崎はそれを知っているはずだ。


「池田屋は可能性が低いけど、もし戦闘があったら自分のやるべきことを果たすつもりだ」

「……俺が代わってやれたらよかったんやけど」
「気持ちはありがたいけどね。……ああ、少し皆の様子を見てくる」


一つため息をついた光は、彼の顔を見れないまま踵を返した。


その時、右手首を掴まれる。気付くと腹に両の腕を回され、温もりに抱きすくめられていた。


「……なに……」


鍛えられた腕、硬い胸、自分よりも大きく力強い身体──どうにも変なことを考えてしまう。全身がかっと燃え上がるような恥ずかしさを覚えた。


なぜ、どうして、こんな気分になる……?山崎に抱き締められたことは、これが初めてではない。
その時と今とで、何が違う?


「光、俺な、」


耳元に小さな囁き声がかかり、光の澄ました表情が一瞬で崩され、頭が真っ白になる。


「俺は──」
「光さーん! 池田屋の間取りですが──」


突然、ダンと戸が開け放たれる。


「……」
「……」
「…………すみません、お邪魔しました」


ぴしゃりと戸が閉められ、慌てたように足音が遠ざかっていく。


(総司っ!?)


彼から見れば、部屋の中で睦み合っているように見えただろう。それも、男と男が。恥ずかしいような、恐ろしいような気分になった。


光は耐え切れず、距離を取った。その間も光は一人混乱していた。何がどうなってああなったのか……。


後ろから重い嘆息が聞こえ、光はぴくりと身体を揺らした。


「……まあ、ええわ。
 分かっとると思うけど……見えへんとこに怪我したらあかんで。治療するときに、お前の秘密がばれてまうからな」

「だ──ダイジョーブ……」


光は返事もそこそこに別れを告げ、まるで先程の沖田ように脱兎のごとく逃げ出した。


あれ以上彼が側にいると、自分の中の何かが爆発しそうだ。

< 85 / 102 >

この作品をシェア

pagetop