深紅の薔薇と漆黒の貴方
光の部分
李玖side
私が輿に乗って御簾を降ろすとき、姉上は泣いていらっしゃった。
なにかと口うるさい妹にもう会わなくてもよいと、清々していると思っていたのに。
そんなことをぼうっと考えていると、頬に冷たい筋が出来た。
泣いているのか、私は。
あれだけ姉上にしっかりしろと言っておいて。
自嘲の笑みが零れて、なんとも情けなかった。
しばらくして、御簾が擦れる音がしたので、あわてて袖で涙を拭う。
「李玖様、只今弦黒に入りました。」
私の泣き跡には気付かずに、付き添いの、そめ という侍女は言った。
弦黒が私の世話係兼案内役にと寄越したこの侍女は、まだ幼い顔の、気立ての良さそうなおなごだった。
その顔に、なんとなく姉上の面影を見た私は、そめに少しだけ親近感がわいた。
「そうですか。少し周りの景色を見てみたいのですが、御簾を上げてはくれませぬか?」
するとそめは、驚いた顔をした。
「李玖様、わたくしのような者にそのような丁寧なお言葉づかいは無用にございまするよ。」
その言葉には、私のほうが驚いた。
なぜなら、麗蓮では仕えてくれている家臣には敬意をもって接しるとし、王以外は皆、王族でも家臣に敬語を使うし、王であっても、常に礼の気持ちは忘れぬよう心がけている。
余程のことでなければ、偉そうな命令はしないのが当たり前。
まぁ、縁談の話を聞いたとき、私は佳燕に少しきつくあたってしまったが。