エンドロール・サマー
終わりを告げるのは始まり?
終わった‥
野田祐希は高く広がる青空の中で、気持ちよさそうに滑走する白い球体をぼんやりと見つめた。その球体が描く放物線があまりにも美しくて、思わずフェンスの向こうに消えたことを惜しく思っていた。祐希は、それが場外ホームランであるということに、主審の試合終了の合図がグラウンドに響いてからようやく気付いた。虚ろな駆け足で帽子を外しながら、口で大きく呼吸をすると、乾いた砂埃の味がする。いつからかは分からないが、妙に口の中が塩辛い。それが涙だと気付いたのは、かなり後のことであった。
「-ゲームセット!」

「ちょっとぉ、祐希!起きなさい、時間よ!!」
どうしてこうも朝から高いキンキン声で騒げるのか、祐希にとって朝の母典子はちょっとした地球外生命体のような気がする。
「こら、祐希!あんたももう受験生なんだから!ダラダラしないの!」
もう受験生なんだから。昨日の俺と今日の俺は何が違うんだろうか。
「分かったよ。いま起きる」
のろのろと布団から這い出て、カーテンを開ける。太陽が痛いくらいに祐希を差した。いつもなら朝日が差す前に飛び起き、ジャージに急いで着替え、ベッド脇に置いてあるカバンをつかんで階段を飛ぶように駆け下りていた。カーテンから朝日が差すちょうど今頃なんかは、自主トレーニングを始めていたものである。野球部に入りたての頃はこの生活が苦痛で仕方なかったはずなのに、今となってはカーテンから朝日を浴びるのがどこか気持ちが悪い。グラウンドに差す朝日はあんなに気持ちが良かったのに、カーテンから差す朝日はそれとは似ても似つかない凶器のように感じる。痛いくらいに朝日を浴びてから、それでもなお目覚めない体を引きずって階段を下りた。
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