君の知らない空

皆の話を聞きながら、枝豆を摘まむ手が止まらない。隣で優美は梅酒ロックをぐびっと呑み干し、おかわりを頼んでいる。


「江藤君は男前で仕事もよく出来るのに……トラブル起こすような子じゃないし、相手は全然顔見知りでもないんでしょ?」


計器チームが私たちを覗き込んだ。


「そうらしいですよ、鞄が当たったとか言い掛かりつけられたって言ってましたから」


優美が答えると、


「男前に嫉妬したんちゃうか? ワシも気をつけなアカンなぁ」


と素材チーム長が笑いを誘う。
皆がつられて笑う中、計器チーム長が携帯電話を取り出した。


「しかし最近、物騒な事件が増えましたよ。娘の学校からの防犯メールが2、3日に一回ぐらいのペースで届くんですが、不審者やひったくりや痴漢の情報ばかりですからね」


と言って計器チーム長は携帯電話を見ながら、眉間にしわを寄せる。


そのメールの中に、私がひったくりに遭ったことはないはずだ。だって警察に届けていないから。
実際には、メールの件数以上に事件は起こっているんだろう。


「二人とも気ぃつけよ、遅くならんうちに帰らなあかんで」


素材チーム長が腕時計に目を向けて、驚いた顔をする。表情豊かな彼を見て、課長がくすっと笑う。


「今まで見えてなかったものが、表沙汰になってきてるのかもしれないですね。私たちも気をつけた方がいいですね」


もっともらしい課長の冷静な口調が、少し怖く感じられた。


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