君の知らない空
それから定時のチャイムが鳴るまで、美香とオバチャンのことがずっと気になっていた。仕事をしながらも、そっと二人の様子を目で追ってしまう。
美香は強い。
オバチャンの視線を浴びても、少しもおどおどした様子も見せずに平静を保っている。
私なんか、最初の頃はオバチャンらにどれだけ気を遣って、びくびくしてたことか。
なるべく目立たないように、気に障るようなことは言わないように、気をつけて気をつけて……やっと今ここにいることが、生き延びることが出来てるんだから。
それが出来ず、オバチャンらに屈することが出来ずに辞めていった人は数知れず……
単に私が小心者だったからかもしれないけど、当時の私には辞める発想はなかったし、辞めて新たな仕事を探すのもしんどかったし。
「お疲れ様、下まで手伝おうか?」
自席で帰る準備をしていたら、優美がやって来た。
「お迎え、来てくれてるんでしょ? 下まで降りたら私はすぐに帰るから」
優美はにこっと笑って、私のバッグを取り上げる。やっぱり友達って、ありがたい。
「ありがとう」
と返したら、優美の向こうに美香の姿が見えた。仕事中には動じる様子もなく、絶対に見られなかった寂しげな顔をしている。
「さ、行くよ」
気にする私の視線を遮るように、優美がぐいっと手を引いて歩き出す。
ごめんね。
心の中で私は美香に謝って、事務所を後にした。何もしてあげることが出来ない自分を、情けなく思いながら。