君の知らない空
「あのな、あんまり聞くなって言っただろ?」
と言うと、桂一がテーブルに肘をついて身を乗り出す。顔を近づけてきて、何か言う素振りを見せる。
応えるように、私も桂一に顔を近づけた。
「社長の秘書兼ボディガードだよ」
消え入りそうな小さな声。
言った後、かなり周りを気にしてる。
「秘書? ずいぶんイメージが違うね……ボディガードの方がしっくりするけど、柄が悪すぎる気が……」
「しっ、それ以上言うな。もう忘れろよ、言わないつもりだったのに教えてやったんだから」
私の口を慌てて塞いだ桂一は、かなり焦ってる。でも私には、教えてやったって言い方が気に入らない。
私は桂一の手を解いた。
「何なの? 桂、その人たちのこと怖いの? ボディガードって結局は警備の人なんでしょ? 何を怖がることがあるの?」
「バカ、声が大きいって」
桂一がまた、口を塞ごうと手を伸ばす。
それを交わした私は、椅子の背にどかっともたれた。
「厳つい見た目で圧倒されてるだけなんじゃないの?」
大きく首を振った桂一が、真剣な表情で私を見据える。
「橙子、見た目だけじゃない。あの人たちは俺なんかとは違うんだ。本当にヤバイから、変なこと言わないでくれよ」
「ヤバイ?」
「その気になったら俺なんてすぐに消される。社長を命懸けで守ってるんだから」
胸にのしかかるような低い声が、真実であることを告げている。
金曜日に桂一が言った『危険』という言葉と重なって、ひやりとした空気に包まれる気がした。