君の知らない空


翌朝、リビングに降りたら母と目が合った途端に笑われた。


「おはよう、よく眠れた? 寝過ぎて目が腫れぼったくなってるわよ」


壁の時計を見上げたら、10時を過ぎている。昨夜は何時に寝ついたのか覚えてないけど、沢村さんからのメールを確認したのが10時30分ぐらいだったはず。


我ながらよく寝たものだ。
洗面所に直行して鏡に映った自分の顔を見て、なるほどと思った。


これじゃあ今日は、どこにも出かけられないなぁ……と心の中で溜め息を吐いたら、


「今日は家でおとなしくしてなさいよ、そんな顔じゃあ、外に出られないでしょう? まだ足も痛いんじゃないの?」


と、絶妙なタイミングで母が言う。にやっと笑った顔が何か企んでる。
おそらく、家の掃除でも手伝わせるつもりだろう。


「そうだね……今日は引きこもることにするよ」

「じゃあ、今日はお母さんと一緒に掃除しよう、お布団も干したいし」


やっぱり企んでた。


テーブルに着くと、母が手際よくご飯を並べてくれた。白いご飯と味噌汁と卵焼きと焼き鮭、典型的な朝ごはんだ。でも私にとって、この食事は朝昼兼用なのだ。


早速食べ始めた私の前に座った母は、こんがりと香ばしく焼けた食パンにたっぷりバターを塗って砂糖を振りかけた。


「これはお母さんのオヤツだからね、橙子も食べたい? 美味しいわよ」


とても嬉しそうに、しかも美味しそうに食べる。


「要らない」


ふいと目を逸らすと、つけっぱなしのテレビにニュースの映像が流れている。事件のようだが、どこかで見覚えのあるような景色。


あれ?
どこだったかなぁ……?
思い出せそうで思い出せない。



< 219 / 390 >

この作品をシェア

pagetop