君の知らない空


何で気づかなかったんだろう。


込み上げる後悔と共に紙とバッグを握り締め、店を飛び出した。この店には二ヶ所の出入口がある。駐輪場に面した側とショッピングモール内の通路に面した側、どちらからもぐるりと辺りを見回した。


彼らしき姿は、どこにも見つからなかった。


こんなに近くにいたのに全く気づかなかった自分が情けない。
悔しくて、悲しくて、切なくて……どうにもならない気持ちに胸が押し潰されそうになる。


私は唇を噛んだ。握っていた紙を開くと、彼の文字が滲んで映る。今にも零れ落ちそうになる涙を堪えて、ぐいと目元を拭った。


どうして彼は、ここにいたんだろう。


もしかすると周さんが私の名前を知っていたように、彼も私のことを知っているのかもしれない。きっと、私の行動まで把握しているんだ。
だから、こうして紙に書き記して伝えようとしたのだろう。この言葉の中には彼の優しさだけでなく、付きまとうなとの警告も込められているのが感じられる。


それでも私は、彼の秘めているものに対する恐怖など感じない。付きまとうなと言われても、私は彼を探したい。


もはや私にとって自分の会社が乗っ取られることよりも、彼の声を聞きたい、話がしたいことの方が大事だと思えるのだから。


彼が隣にいたことに気づかなかったことは本当に悔やまれるけど、今日は収穫があった。彼が無事に居てくれたことが分かったのだ。そう思うと、気持ちが楽になってくる。


どうか逃げ切って欲しい。
そのためなら私は、桂一の意に反することもしてみせる。




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