君の知らない空


始業のチャイムが鳴り、業務に取り掛かろうとした私の背後から冷ややかな視線が注がれる。ひとりじゃない。だいたいの検討はついていた。
手に取った書類を机に置いて、恐る恐る振り返った。

「高山さん、ちょっといい?」

察したとおり、山本さんと野口さんが怖い顔で見下ろしている。私は言われるままに、二人の後について行った。


定員10名の小さな会議室、私は会議テーブルを挟んでオバチャン二人と向かい合っている。

「正直に話してくれる? 白木さんのこと、あなたはどこまで知ってるの?」

あまりに唐突な振りに、思わず目を見張った。その前に、火事のあった居酒屋にいた話をされるのかと思っていたのだから。

「ええ……と、どこまでってどういうことですか? 私は普通に……あんまり深くまで話したことないですし……」

山本さんが大きな溜め息を吐いて、思いっきり苛立ちを露わにする。しまった。余計なことを言ってしまったかもしれない。

「もう……鈍いわね、私たち知ってるのよ、あの子がこの会社に入ってきた理由も、あなたがあの子に手を貸してることも全部」

「ここなら誰も聞いてないから、正直に話してみてよ。話したからって、あなたに悪いようにはしないから」

会議テーブルに肘をつき、身を乗り出した山本さんと野口さんが私を凝視してる。ドラマとかでよく観る取調べの様子を実演しているみたい。ということは、私が犯人役か。悪いことなどした覚えもないのに、悪いことをしたような気分になってくる。

でも今ここで、私の知ってることを話す訳にはいかない。美香の父がこの会社を乗っ取ろうとしていることなんて話したら、オバチャンが激昂してしまうかもしれない。

それに美香がどこまで知っていて、本当に関わっているのか確認も取れていない。


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