君の知らない空


交差点を並んで渡る彼の肩越しに、高架の上の夕霧駅を緩やかに走り出す電車が見える。その下は傾斜の緩い下り坂になった車道と、外側の高い所を並走する歩道がある。


彼に助けられた高架下。下り坂の車道は高架下の真ん中で上り坂に変わり、高架を抜けた先は彼が事故に遭った交差点だ。


高架下の陰を見ていたら、封じ込めていたはずの恐怖が蘇ってきた。慌てて目を逸らしたけど、既に手遅れ。


胸の奥深くから解き放たれた不安が沸き上がり、自己主張を始める。ぞわぞわと胸がざわめいて気持ち悪い。


やっぱり私は小心者だ。
しかも、ついてない。


こんな時に限って、何か嫌なことが起きたりするんだから……


いつしか私は彼の半歩後ろを歩いてる。まるで彼を盾にして隠れるように。


横断歩道を渡ると、駅前のロータリーが見えてくる。恐る恐る辺りを見回したけど、怪しいと思われる人や誰かを探しているらしい人の姿は見当たらない。


ほっとしたけど、そんなことぐらいで簡単に不安は消えない。こんなところで堂々と歩いていて大丈夫なのか、悠々と歩く彼は何も感じていないのか、怖くないのかと警戒する私は挙動不審になっていく。


「何か、食べたいものある?」


ふいに飛び込んだ声。握った手にきゅっと力を込めて、彼が覗き込んでいる。


私の胸の中で疼いていた不安を、彼は一瞬で吹き飛ばした。もし、意図しての行動なら彼はすごい。


「え……小川さんの食べたいものでいいです、私は何でも食べられるから」


答えると、彼は顔を上げた。


「じゃあ、ここでいい?」


それは夕霧駅前のロータリーを通り過ぎた路地にある、小さなお店だった。


< 297 / 390 >

この作品をシェア

pagetop