君の知らない空


「橙子? おい、橙子?」


不意に呼ばれて振り向くと、桂一がきょとんとした顔で私を見つめている。


どうやら、
私は思い出の中に逃避していたらしい。


既に車は、職場から数十メートル手前の路肩に停まっている。


「疲れてんのか? あんまり無理すんなよ、仕事より体の方が大事だぞ」


私を心配してくれる桂一の声は優しくて、胸が大きく揺らいで傾きそうになる。


「うん、大丈夫」


揺らぐ気持ちを悟られないように、私はそそくさと荷物を抱えた。









< 30 / 390 >

この作品をシェア

pagetop