君の知らない空
   

おばさん?
今、何って言った?
半分は日本人って?


「小川さん……って、ハーフ?  なんですか?」


テーブルを挟んで私の向かい側に座った彼が、恥ずかしそうに微笑んでる。


「あ?  もしかして、そこまで知らなかった?  ごめん」


湯気の向こうから、しまったというおばさんの声。謝ってるのに、明るい口調で反省は少しも感じられない。


きょとんとしている私を見て、テーブルに頬杖をついた彼がにこりと微笑んだ。


「僕の父は中国人、母は日本人なんだ、『小川』は母の姓、父の姓は『杜』と言って、本名は『杜亮維(ドゥリャンウェイ)』。だけど、ここに来た時は使わない。呼びにくいから『小川亮(おがわあきら)』で通してる」


「でもね、『あきら』の方が呼びにくいわよ、『りょう』でいいじゃないって言ってんのに……ねえ、ハルミちゃんも思うでしょう?」


彼が言い終えるのを待っていたかのような勢いのある声。湯気の消えた鉄板の向こう、口を尖らせてるおばさんが見える。


「『あきら』でいいよ、その方が、らしいだろ」


照れているのか、彼は頬杖をついた両手で口元を覆った。


彼の二つの名前の謎が解けた。
すっと胸が軽くなって、顔が綻んでしまう。こっそり彼を覗き見たら、ばっちり目が合った。


「すっきりした?」

「はい、あきらさん」


なんだか嬉しくなって名前を呼んでみたら、彼は照れ臭そうに俯いてしまった。


「名前呼ばれたぐらいでどうして照れてるのよ、はい、お待たせ」


おばさんが私たちの前に並べた皿の上には、綺麗な真ん丸のお好み焼き。ソースの匂いがたまらない。



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