君の知らない空



「アイスクリームが食べたい」

と言って、彼は私の分までアイスクリームを買ってくれた。割り勘しようと言ったけど、


「それは絶対にダメ、僕が払う。今度は橙子がご馳走して」


と彼が笑って止めるから頷くしかない。申し訳ない気持ちだけど、彼の言ってくれた『今度は』という言葉に期待してしまう。


知花さんと別れて、高校生たちの群がってる窓際のテーブルから離れた通路沿いのテーブルに着いた。
彼と向かい合ってアイスクリームを食べてるなんて、不思議な気分。


小さなスプーンを口に運んで、目を細めるのが眼鏡越しに見える。嬉しそうに口角を上げる顔がかわいくて、スプーンを持った私の手が止まってしまう。


突然、彼の目がこっちを向いた。


「僕たち、ホントに似てるのかな?  いとこに見えるのかな?」


さっき、知花さんにいとこだと言ったことを思い出す。


「え?  似てる訳ないよ。小川さん帽子被ってるし、眼鏡掛けてるから、知花さんがちゃんと顔が見えてたとは思えないよ」

「それじゃあ、これでどう?」


と言って、彼は帽子を脱いだ。
ペタンとした髪をくしゃくしゃと触って、アイスクリーム屋さんの方へと視線を送る。見てくれと言わんばかりの顔をして。


「ここから結構、離れてるから見えないんじゃない?」


私もアイスクリーム屋さんを覗いた。店内の奥の作業台に向かってる知花さんの背中が見えるけど、こっちを振り向く様子はない。


「そうかなぁ……こっち向かないかなあ」


懸命に視線を送ってる横顔がかわいい。私は知花さんが振り向くことよりも、彼の横顔ばかり見てしまう。



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