君の知らない空



誰?
って、今にも口に出しそうな顔をした知花さん。目がくるくるしてる。


きっと私に新しく彼氏が出来た、と思っているにちがいない。それも悪くないけど、否定しなくては。


でも、何と言えばいい?


頭の中を整理してるうちに、変な沈黙が漂い始める。どうしようと焦るほど言葉は浮かばないものだ。


すると、彼が私の隣に立った。


「こんにちは、橙子の彼氏だと思いました?違いますよ、橙子のいとこです。仕事でこっちに来たので、久しぶりに会うことになったんです」


急にペラペラと自己紹介を始めるて、呆気に取られる私ににこっと笑いかける。


もしかして、それは私に同意を求めてるの?


「そう、そうなんです。出張で来るって言うから、だったら久しぶりに会おうかっていうことになって……」


彼の笑顔をきっかけに、言葉がずるずると引き出されてく。よくもまあ、そんな事が言えるものだ。


「へえ……いとこなんだ、遠くに住んでるの?」

「はい、小さい時はこっちに住んでたんですけど、父の転勤で離れたんです」


彼はさらりと答える。
すごいなぁ……
でも、ちょっと無理があるような気がする……と思っているうちに、知花さんが納得したように晴れやかな顔になっていく。


「そうなんだ、あっ、もしかしてお母さんの方のいとこ?  そう言われたら、橙子ちゃんに雰囲気が似てるような気がするかも」


嘘でしょう?
私と彼の顔をまじまじと見比べながら言うけど、似てる訳ない。本気で言ってるのか疑わしくもなる。


ツッコミたくなるけど、そこは堪えて笑顔で乗り切った。




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