君の知らない空


車は夕霧駅方面へと向かっていた。


ハンドルを握る周さんはずっと黙ったまま。少し遠回りの道を選んで走っていることには、もちろん気づいていたけど尋ねることなんてできない。


さっきの男性らのこと、亮のことを尋ねたいけど、周さんが答えてくれないのは明らかだった。


きっと怒ってる。
固く口を結んだ周さんの横顔を覗き見たけど、恐くてすぐに目を逸らした。


「ジムには行くな、ショッピングモールにも、しばらくは行かない方がいい、わかったな」


目を逸らした途端に降ってきた声は、押し掛かるような威圧感に満ちている。膝の上に載せたバッグを握り締めて、そっと見上げた。


「どうしてジムなの? 今、亮さんが追われてることと関係あるの?ショッピングモールも、どうして行ってはいけないの?」


周さんが固く結んだ口が開く。でも聴こえたのは、私の求める答えではなく大きな溜め息。


「余計なことばかり知りたがるんだな、行くなって言ってるんだから素直に聞いておけ」

「理由もわからないのに黙って聞けるわけない、理由を聞かせてください、どうして急にこんな事になったのか教えてください」


突き放そうとする周さんに、負けるものかと問い掛けた。ここで引き下がる訳にはいかない。


「言わなかったか? 知らなくてもいい事もあるんだ、アイツが何を言ったかしらないが、追われてるのは事実だ。それ以上は気にするな」

「気にしないでいられる訳ないでしょう、私とショッピングモールに出かけたのが悪かったんですか? だったら、私にも責任はあるんだから教えてください」


どんなキツい言葉が返ってくるのだろうと身構える。ぐっと肩に力を入れたけど、周さんは何も言わない。


再び黙り込んで車を走らせる周さんの横顔が怖い。本気で怒らせてしまったのかもしれない。


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