君の知らない空

◇ 閉ざされた道




会社の傍の道路沿いに、水色の車が停まっている。歩み寄ると、桂一は優しい笑顔で迎えてくれた。笑顔で返したけど、これから話すだろうことを考えると内心穏やかではない。


桂一は、黙って車を走らせる。何も話せないまま、車は霞駅とショッピングモールまでの間にあるファミレスに着いた。
以前と同じ窓際のテーブル席に着いて、適当に注文を済ませる。


私は桂一の顔をまともに見ることができず、窓の外へと目を向けた。
幹線道路を走る車のヘッドライトと街灯に照らされて、歩道を行き交う人の姿がよく見える。


昨日オバチャンに見られたのは、この辺りを歩いていた時かも……と考えていたら、桂一が私を見ていることに気づいた。


「昨日、橙子を見たよ。ちょうど、この辺りを歩いてた。俺は車で、ショッピングモールに向かうところだった」


穏やかな声で話す桂一の顔には、困惑の色が滲んでいる。まっすぐに私を見ながらも、時折悲しげに目を伏せて。
私は懸命に目を合わせないようにしながらも、耳を傾けた。


「呼び出されたんだ、でも俺は橙子を追いかけた。橙子の隣にいた人と目が合ったよ」


きゅっと胸が押し潰される。投げ掛けられた言葉が、大きな波紋を描きながら沈んでいく。


桂一がそっと広げた書類には、俯き気味で斜めから撮られた亮の写真。眼鏡は掛けていない。


「この男、だったよね?」


私は唇を噛んだ。
答えられない。
答えられるはずない。


沈黙に包まれたテーブルに、料理が運ばれてくる。桂一は小さく息を吐いて、写真をバッグの中へ入れた。


「食べよう、冷めたら美味しくない」


桂一が促してくれるけど、喉を通らない。食べ終えたら彼の事を追及されるのだと思うと、ただ胸が苦しい。


どうして、見られてしまったんだろう。後悔の言葉ばかりが頭の中を巡っている。



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