君の知らない空
「可哀想に、ヤツは俺を仕留めきれなかった。おかげで意識が戻った時に君らが見えた。その後また寝てしまったから、追えなかったけどな」
まさか先輩が目を覚ましていたなんて……亮は怪我をしていたから。
「もうすぐ綾瀬さんが来る。ヤツも一緒に始末してやるよ。おとなしくしてたら君は助けてあげよう」
「彼は来ない、ここは彼の部屋じゃないから」
来ないでほしい、と希望を込めた言葉は先輩の高笑いに掻き消された。
「まだそんな事言う? 君は彼が心配で会いに来たんだろ? 昨日怪我したって教えてやったから、確かめに来たんだろ?」
私は先輩に躍らされていたんだ。情けなくて悔しい。
ふと玄関の扉が開く。
振り向いた視線の先には、見覚えのある男性。大柄な男性に支えられて、ぐったりとして意識はない。
亮ではないと気づいてほっとしたけど、床に投げ出された男性の顔を見た私は息を飲んだ。それは美香の兄、綾瀬だったから。
「さて、次は妹に連絡して父親だ」
先輩の指示を受けて、大柄な男性が部屋を出て行く。
どうして先輩が綾瀬を?
状況が理解できず、呆然とする私に先輩が告げた。
「眠ってるだけだよ、こちらが綾瀬さん、知ってる? 俺らを散々こき使ってさ、ムカつくと思わない?」
「どうして綾瀬さんを? ムカつくって……裏切ったの?」
「そう、人使い荒いのに報酬少ないし。親子喧嘩のために走り回らされてたって知ったら腹が立ってさ、無茶苦茶にしてやろうと思ったわけ」
それで先輩は、いろんな事を知っていたのか。綾瀬が父の乗っ取りの邪魔をしていることも。
でも、先輩ひとりで綾瀬を裏切られるとは思えない。
「桂一も知ってるの? 他に仲間がいるの?」
先輩はくすっと笑った。