千の夜をあなたと【完】



「わ、わかった、食べるからっ!!」


と叫んだレティの前で。

男は驚いたようにレティを見つめた後、ゆっくりとその目を細めた。

――――まるで雪が溶けるような、ふわっとした笑顔。

子供のように純粋で無垢な笑顔。

その柔らかい笑顔にレティは吸い込まれるような気がした。


こんな笑い方をする人を、見たことがない。


心が綺麗でなければこんな笑い方はできない。

しかしこの男は紛れもなく殺人者だ。

なのに、なぜ……。

困惑するレティに、男は嬉しそうに言った。


「ようやく口をきいてくれたな」


その心底嬉しそうな笑顔に、レティはなぜか胸がぎゅっと掴まれるような気がした。

男はレティに笑いかけながら、籠をレティの前に引き寄せる。



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