キウイの朝オレンジの夜


「ようやく口をきいたな。スピード出すのと余所見するのとどっちがいいか迷ったんだけど、案外折れるの早かったな」

 ――――――――試したんかいっ!!!

 あたしは唖然として口が開きっ放しになる。何だこの男!?あぶねーだろうがよ!どっちもよ!

「ややややや止めてくださいよ~・・・怖いことするの~・・・」

 あたしは半分泣きべそをかいていた。

 稲葉さんはちらりとミラーで確認して、いきなりハンドルを左に切る。

「うひゃあ!?」

 車は結構なスピードで、国道沿いのショッピングセンターに入っていく。

「へ?あの・・・支部長?」

 あたしは助手席でおろおろする。家庭用品やらDIY用品やらが売っているショッピングセンターだ。勿論あたしは用はない。

 一人でパニくってる間に車は屋上の駐車場まで上がり、他の車とやたらと距離を置いて停まる。

 眺めのいい屋上の駐車場で、あたしは車の中に今一番避けたい人と二人。

 たら~っと冷や汗がこめかみを伝った。

 エンジンを切って静かになった車内で、稲葉さんは小さく息を吐いてハンドルにもたれかかった。

 さらさらの前髪が垂れて彼の目にかかる。揺れる髪の間から整った綺麗な二重がこっちを見ていた。

 ・・・・美形だ。


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