キウイの朝オレンジの夜


 久しぶりに見た稲葉さんの瞳に、あたしは簡単に見惚れた。視線を外すことが出来なくて、そのままでしばらく見詰め合う。

「――――――説明しろ」

 低い声が聞こえてハッとした。

「はい?」

 あたしは忙しなく瞬きをして、やっと稲葉さんから目を外す。

 いつもの明るい声じゃなかった。その低い声はあたしの頭の中でわんわんと響いて余韻を残す。

「・・・何で俺を避けてるのか、説明しろ」

 くらりとする。あああ・・・あたし、今すぐ呼吸を止めてみたい。なぜ、何ゆえにこんな修行を・・・。

「・・・ええと。別に、避けてません」

 膝の上で握り締めた両手に意識を集中する。違うことを考えて緊張を解こう!ええと・・・ハンドクリーム、塗るの忘れてた。こんな手じゃ、すぐに書類で指を切っちゃう――――――――

「避けてんだろ。最近ちっとも神野の顔を見ない。会話もしてない。部下と対話も出来ないで、どうやって支部をまとめろって言うんだ?」

 稲葉さんの声は相変わらず低いけど、不機嫌そうでもない。淡々と事実だけを聞いているって感じだった。それが、あたしを傷つける。

「・・・すみません、忙しくて」

 ため息が聞こえた。稲葉さんはハンドルに両手を置いてうつ伏せになった。


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