キウイの朝オレンジの夜
パッとあたしから手を離して菜々は文句を垂れる。
「汚い!あたしに近寄んないで!・・・って、え?秘密なの?」
あたしは頷く。
そんなこと公表出来るか。あたしは事務ではなく営業で、相手は自分の上司だ。いくら主婦層で固められている支部に在籍していると言っても、カップル誕生~なんて宣伝したら、あたしがどんな契約をとっても支部長が回したのではないか、と疑われる危険性がある。
つまり、僻みや妬み、嫉みってやつだ。
営業職である限りついてまわる。仲の良い悪いは関係なく、毎日が足の引っ張り合いだ。
こればっかりはどうしようもない。いくらうちの支部が仲の良い自治会みたいなノリの支部でも、危ない橋は渡れない。
自然にバレるのは止められないが、わざわざ宣言まではしないと決めている。
実を言うとさっき、菜々のノックの音で目覚めたあたしは姿見にうつった自分の姿を見て驚いたのだ。
首筋や胸元に、昨日の稲葉さんの痕跡。・・・わざとつけたに決まってる。
だからあたしは真っ赤になりながら、認めざるを得なかったのだ。昨日のことは、欲求不満なあたしが見た利己主義的な夢なんかでなく現実なんだと。
本当に稲葉さんに抱きしめられて、キスをされ、俺のものだといわれたんだって。
あたしも、脅されてだけど好きですなんて告白したんだって。
うきゃー。