ヘタレ少年と恋模様
友(太郎)は挑むような目付きで俺を見る。
「ああ、俺は太郎だよ!紛れもない太郎だ!」
俺が口を挟む暇なく友は話し続ける。
「太郎ってなんだよ太郎って。今時太郎なんて珍しいし目立つんだよ……。なんで俺は太郎なんだ」
「あの」
「もう少し男前な名前つけてくれよ本当に。毎回名乗るたびになんなんだあの何とも言えない表情は!そんなに太郎は珍しいか希少価値高いか」
「なあ」
「下手したら俺の名前は桃太郎だったんだぜどう思う?さすがにないよな。ありがとう必死に止めてくれた見知らぬおばちゃん!」
「おい」
「なんだよやまむ……あっ」
友の目の前にはにこやかな笑みをたたえている担任がいた。
友の顔が一瞬にしてひきつる。
何回も呼んだのに……。
「へぇ、そうなの。私すごく幸運ね。こんないい情報が聞けるなんて。ところで今なんの時間か知ってる?」
にこやかに笑む担任の顔がまた怖い。
「授業です、すみませんでした!」
間入れず自分の席に戻る友の目にはきらりと光る雫。
え、泣いてんの?なんで?
「山村は席につかなくてもいいの?」
クラスに緊張が走る。なんだ?確かに恐ろしくはあるが。
でもそんなに怖いのか?この先生。
先生の顔をチラッとみる。
その時俺は悟った。逆らってはいけないと。
「座らせていただきます!」
「そうね。そのほうが安全ね」
座らなかったら一体何が起こるんだ……。
ガクガク震えている友を見つける。
とりあえずこのクラスはどこかしら変なことがわかった。


