ヘタレ少年と恋模様


恐かったり嬉しかったり恥ずかしかったり。

今日は忙しい。


さらにこの後はしんどいことも待っている。


そう、茜さんをもてなすことだ。


考えれば憂鬱になるけど、今日は友人も出来たことだし幾分心が軽い。


さて。そろそろ席に着くか。


少し重い体をやっと動かす。


「ときに山村、俺の名前まだ知らないよな?」


席につかずにそばにいた友が、そう俺に尋ねた。


しまった。そういえば、友になった男の名前を知らない。


「ごめん、知らないから教えて」


「しょうがねぇな!さて、俺の名前はなんでしょう?」


え、教えてくれるんじゃねーの?


聞かれたからといってわかるわけがない。


そう思いながらも、とりあえず答えた。

「……太郎?」


「あちゃー……。俺、太郎に見える?見えんの?」


「……いや」


「だよなぁ!太郎なんて顔じゃねーもん、俺」


太郎に見える顔ってどんな顔だよ!


ここで薄々感じ始めてたことがある。


なんかめんどくせぇな、こいつ。


いや、訂正。友に対してそう思うのは失礼だ。


そう、ただ話をややこしくすることが優れている人物ってだけだよな!


いまだ一人で太郎について熱弁してる友に声を掛けた。


「もう本当に授業始まるし、そろそろ教えてくれない?」


友はピタリと声を止めると、ふいと顔を背けた。


「……だよ」


すんげぇちっさい声で何を言ってるかわからない。


「……え、なに?」

「……太郎」


「いやだから太郎の話はもう」


「俺のファーストネームは太郎」


……マジで太郎か!

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