HERO
手の甲に滴が落ちる。
ひとつ、またひとつ。
気付かれないように膝を抱え込み顔を隠した。
「衣奈?」
「ああ、ごめん。なんか眠くなっちゃった。少し、寝てもいいかな?」
「それは、構わないけど…」
どうかこの日が訪れませんようにと、何度願っただろう。
それでも今、その時は現実に訪れている。
けれど、悲しみの中にどこか心が温かくもあるのだ。
梓の笑顔がそうさせているのか。
あんなにいじめられっこで、泣き虫で、弱虫だった梓が今、誰かにこんなにも愛されていることが、幸せでたまらないのだ。
あんなに幸せそうな顔を、私はこれまで見たことはあっただろうか。
私はすぐにでも、この気持ちを捨てるべきなのだろう。
私にはきっと、彼を幸せにすることはできない。
やはり私たちは、幼なじみという小さな枠の中で、共に生きる運命なのだろう。
、