As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
結の前で……



あいつの名前を出してもいいだろうか……。



でも、変えられない事実。



「そしたら偶然中道と遭遇して…」



「…………。」



結の表情が……
次第に曇っていく。



「うちのクラスの出番すぐだからって、代わりに取りに行ってくれて……。」



「…へー、やるじゃん、中道くん。」



「……なんか……、ごめん。」



「…なんで?私が中道くんの立場でもそうしたよ?」



「…………。」



「…それとも何?私がヤキモチやくとでも思った?」



「…や。そういうわけじゃ……。」



ハイ、
その通りです。




「全くお騒がせなんだから~。肝心なとこで何かやらかすよね、柚って。」



「……ハイ。」



「まあ、何より間に合って良かったじゃん!」



「……うん。」



「…なんの問題ナシっ!」



ニカッと笑って……


それから結は、目の前の料理をパクついた。






「そうだった、取りに来たわ、男の子!」



お母さんが思い出したかのように頷きながら…、音を立てて、グラスを置いた。



「………。」



結と二人、母の言動に耳に傾ける。




「開店前の店に制服の男の子来てさあ…、」



お母さん……?
何を言うの……?




「で、『柚さんのクラスメイトで中道侑っていいます。』っていきなり自己紹介!」



お母さんは中道の口調を真似て、思いだしたかのようにクスリと笑う。



…ちょっと似てるし。


いかにも野球部って感じのキッチリとした挨拶が。



「…で、あまりにその姿がカワイイから、『柚の彼氏?』って聞いたワケよ。」



……えええ~っ!?
ちょっとそれは…地雷、踏んでませんか?



チラリと結の表情を伺う。


……が、



さほど動揺した様子はない。



「違うし!」


私は全力で否定する。



「…アハハ!彼もそのまんま!『違います!』って動揺しちゃって……。ちょっと初対面でいじめちゃったかもね。」



……動揺……したんだ。



「で、楽譜の件聞いて取りに行って……」



「ま、待って!ちなみに誰が取りに…?」



「ん?もちろん私!ピアノの上にあるって彼が教えてくれたし。」



「…ああ……、そう。」



ホッと胸を撫で下ろす。



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