愛し

-Ⅰ-

梅雨なんて大嫌いだ。じめじめとした湿気が肌にくっつくようで鬱陶しい。

大きめのビニール傘を差しながら、乗り慣れた黒い自転車を走らせる篠田遼の心の中は今日の空よりも荒れ模様だ。

パーカーの右ポケットが指定席のアイポッドからは大好きなミスターチルドレンが流れているのだが、ヘッドフォンのコードが濡れた首にあたる度、妙な苛立ちが加速してしまう。

どれもこれも梅雨のせいだ。今日から七月だっていうのに、朝から晩まで雨、雨、雨。ほんの少しの晴れ間さえ覗かせることなく、先週からずっと降り続いている。

おかげで朝のヘアースタイリングに普段の倍は手間が掛かっている。しかし、専門学校に着く頃には寝起きさながらの広がりを見せているのだから堪ったものではない。ゆるくパーマをあてているかのようなクセの強い自分の髪質を、とことん嫌いになる理由のひと押しになっても仕方ないだろう。

それに加えて、今はジーンズの裾だって嫌いだ。腰パンをしているわけでも、裾を引きずっているわけでもないのに泥水を飲み込んだように重くて気持ちが悪い。

ああ、傘を差すのも面倒だな。片手が塞がってしまうにも関わらず、持ち方をいくら変えても腰から下は守備範囲外となり濡れてしまうのだから。

どうにも出来ない遣る瀬無さにいっそ閉じてしまいたくもなるけれど、こんな土砂降りの中で傘を持っているのに差さない奴がいたら周囲から奇異の目を向けられるのは想像に容易い。

渡れると思った信号さえも紙一重で赤となり、それが引鉄だったかのように深い溜息を吐き出してしまった。

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