愛し
百メートル程歩いたところで、赤と白のカラー使いが印象的なコンビニエンスストアに到着した。ゴミ置き場の隣にある駐輪スペースに慣れた手つきで自転車を停める。品揃えもスタッフの営業スマイルもまあまあであろうこの店が、遼のアルバイト先なのだ。

勤め始めたのは進路が決まった高校三年生の冬だったから…、半年以上になるのか。

ある事情から、「シフトはなるべく多く入れて欲しいが、勤務中に少しでも空いた時間があれば学校の課題をやらせて欲しい」と、我侭としか呼べない希望を面接時に伝えたところ、ここの店長やスタッフは快く受け入れてくれた。

また、特別に時給が良いわけではないが専門学校からの帰り道にあって通いやすく、シフトも週五日で入れてもらえること。更に、周囲にはセレブが住むような高層マンションやスーパーがあるせいか利用客が少なく、実際に暇な時間が度々あるところも気に入っている。

勿論、理由に加えて遼の接客態度や業務に関しての姿勢が真面目である為、皆が理解をしてくれているわけなのだが。こんな恵まれた職場は他にないのではないだろうかと、社会人経験こそないが感じてしまう。

今年の春、遼は美術系の専門学校に入学したばかりなのだが、課題が多くアルバイトとの両立は厳しいのが現状で。睡眠時間を削ってなんとかこなしている状況なのだ。



それなのに。周りに迷惑を掛けてまで腕を磨いても、まだ辿り着けない。
あの時の少女のあの表情を描くには、まだ…。



軽く唇を噛んで俯くと、足を包む真っ白なコンバースのスニーカーがやたらと眩しく見えた。本当は雨で汚れ真っ白ではないのだが、酷く眩しく見えた。堪らず水溜まりに踏み入れると汚らしく泥に塗れたことに、何故か安心した。
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