愛し
遼はもやしたっぷりの野菜炒めを味噌ラーメンに盛りつけ、絵美に早めに寝るように伝えると自室へ向かった。

小さい折りたたみ式のテーブルの上に乗っている数冊の画集を一旦降ろし、そこにラーメンのどんぶりを置く。湯気が立ち昇る食事にいただきますと両の手を合わせ、今まさにスープを一口飲もうとした時。携帯電話のバイブ音が響いた。

箸を置いて鞄の中から取り出すと、陽平からの着信だと知らせる緑のランプが点灯している。確認すると七夕祭りの待ち合わせに関する内容のメールだった。

《結衣ちゃんと連絡取ったぞ!! 可愛い子ってメールの文章もマジ可愛くて…》

前半の関係ない文面はスクロールして要点だけをまとめていく。

「十八時に鶴賀神社の石段前…か」

鶴賀神社はここから徒歩で行ける範囲にあり、地元では大きめの神社だ。

毎年七月七日の七夕当日に祭りが開催されている。今年も平日にあたる為、土日の開催に比べれば人波は少ないかもしれない。怪我をさせてしまった真白のことを考えると、人とぶつかる恐れが僅かでも少ない方が望ましかった。

遼は≪了解。じゃあ当日≫と返信を送ると、湯気の減った味噌ラーメンへと箸を伸ばした。

食べている途中。先ほど下ろした画集の中にある一冊の写真集に目を向け、角がぼろぼろになりつつある表紙を一枚捲った。そこにある作品は遼を自然と笑顔にさせる。



―――この少女に実際会えたらどんなに幸せだろう。
  この少女を自分の手で描けたらどんなに幸せだろう。
  そう思って今まで追い掛けてきたのに……。

突然目の前に現れた彼女に明後日会えることを楽しみに思う自分がいるなんて。



「…浮気する男の気分ってこんな感じか?」

自嘲するように笑うと、食べ終わったどんぶりを洗いに流し台へ向かった。

落ち着かない気持ちをごまかすように。あるいはその気持ちごと流すように。
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