愛し
でも、過去に結衣がかっこいいと騒いでいたタレントやアーティストといった芸能人は、どことなく雰囲気や目元が似ているような気がしたけれど、遼には当てはまらないような気がした。

結衣の好みは確か、スッとした目鼻立ちでガタイの良い、見るからに『守ってくれそうな人』ではなかっただろうか。性格も、文化祭とかで実行委員長を進んで立候補してしまうような明るい人が好きと言っていた覚えがある。

そう考えると遼は当てはまらない気がする。そっと影から遼を観察してみるも、やはり違う。遼はもっと…。

ブルルルル。

突如巾着が震え出し、肩が跳ねるほど驚いてしまった。

紐をほどくとスマートフォンの画面には着信を知らせる≪CALLING≫の文字と、結衣の名前。ついに連絡が着てしまったかと項垂れながらも通話ボタンを押す。

「もしもし」

≪もしもし、真白? もう時間過ぎてるよ! 今どこ!?≫

「もう着くよ」

≪本当? それなら良かった! 真白のことだからやっぱり来てくれないのかと思ったよー≫

「行かなくていいの?」

≪え、嘘、嘘! 早く来てね。みんな待ってるから!≫

慌てた結衣の後ろから「小さいから人波に埋もれてるんじゃね」と言う陽平の声が聞こえた。とりあえず会ったら殴ろう。

電源ボタンを押して溜息をひとつ吐くと、すぐに帰れますようにと心の中で呟き、重い腰を上げた。
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