Secret Lover's Night 【連載版】
一方千彩は、晴の言葉に複雑な心境だった。


大人は怖い。


常日頃からそんな思いを抱える千彩にとっては、晴の言葉は完全に信用出来るものではなかったのだ。

「はるは…ね」
「ん?」

遠慮がちに出した言葉を、優しそうに目を細め拾ってくれる晴。それがとても嬉しくて。

跳ね上がりたいような、大きな声で叫びたいような。そんな衝動を抑え、寄り添ったままの晴に千彩はギュッと力一杯抱きついた。

「お?」

抱きつけば、抱き止めてくれる。そんな当たり前だろうことが、千彩にはとても嬉しくて。

スリスリと晴の首元に頭を擦り寄せ、後頭部に優しく触れる手の心地良さにうっとりと酔いしれた。

「なぁ、千彩」
「ん?」
「ここに住むか?」
「ここに?」
「そう。俺と一緒にここで暮らすか?」

その言葉にバッと体を離し、千彩は驚く晴をグッと押し返して距離を取った。


甘い誘いの後には、必ず悲しいことが待っている。


それが、上京して最初に覚えたことだった。お札の大量に詰め込まれた箱が、千彩の脳裏に蘇る。

「いや」
「千彩?」
「はる…嫌い」
「おいおい。どないしてん、急に」

ブンブンと頭を振り、千彩は拒絶の意を示す。優しく触れられる手を払い除けた時、大量の涙が零れ落ちた。

「キライ!キライキライキライ!」
「ちょ、落ち着けって。何が嫌やってん」

伸ばされる手を払い続け、錯乱に近い状態で「嫌い」と泣き続ける千彩。何が「イヤ」で、何が「キライ」なのか。それさえ自分の中で理解出来ていない状態だった。
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