Secret Lover's Night 【連載版】
「千彩、聞いて?」

諭すような晴の声に、抱え込んだ膝を両腕で力一杯抱き締める。膝に額を付けたまま小さく纏まった状態で、千彩は次に紡がれるだろう晴の言葉を静かに待った。

「何を不安になったんかわからんけど、別に俺は千彩をどうかしたろうなんか思ってへんで?」
「…うそ」
「嘘ちゃう。どうかしたいなら、もう連れて来た時点でしてるわ。信じてや。あっこはあかんって。ここに居り?な?」
「イヤ!はるもちさほかすもん!ちさどっか売るもん!」
「あほか!誰がそんな…」

言い終わってしまう前に。と、千彩は勢いよく晴に抱き着いた。縋りつくように、ギュッと。

首元にかかる圧迫感に顔を歪めながらも、同じくらいの力量で抱き返してくれる晴。


捨てないで・・・捨てないで・・・


縋る相手など、他に居なかった。自分を腕の中に収めてくれる晴の存在が全てで。スンと鼻を鳴らし、どうしても音に出来ない言葉を千彩は呑み込む。

「なぁ、千彩」
「・・・」
「千彩、大丈夫やから。俺がお前のこと守ったるから」

優しい音で名を呼ばれ、ゆっくりと頭を撫でられる。それだけで得られる満足感が、千彩の中に確実に存在していて。その想いをどう言葉にしていいのかわからぬまま、黙り込んだ千彩が何度か鼻を鳴らした。


「起きたら買い物行こうな?おやすみ、千彩」


優しい声音が、胸の奥に柔らかな明かりを灯してくれる。そのまま身を委ね、離さぬようにキツく抱いてくれる腕の中で眠りに落ちた。
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