Secret Lover's Night 【連載版】
それが千彩の安定剤代わりなのだと智人が理解したのは、医師に指摘されたからだった。

「何か執着してる物があるなら、それが彼女の安定剤代わりなんでしょう」

そう言われて一番に思い浮かんだのがプリン。そして、ぬいぐるみのプリン。おそらく前者は幼い頃の思い出、後者は晴人の代わりなのだろうと判断した智人は、その二つを同時に差し出すことで千彩の安定を図った。

そして、プリンを差し出して誰からの贈り物なのかを告げる。


「晴人がな、買うて来てくれたんやで」


その言葉にピタリと手を止めた千彩の頭をゆっくりと撫で、再び手を動かすように促す。

「お兄な、一回来たんやけど…仕事行かなあかんようになってもて帰ったんや」
「はる…」
「そんな顔すんな。明日にはパパとママも帰って来るから。な?」
「…うん」

仕事だと言われれば、千彩はゴネるわけにはいかない。それでなくとも、昨日自分がしたことで晴人の仕事の邪魔をしてしまったのだ。甘いカスタードの味に何だか泣きたくなったのだけれど、どうしてか涙は出なかった。

「腹減ってないか?」
「お腹…空いた」
「ほな、ちょっと早いけどメシにしよ。悠真、千彩頼むわ」
「おぉ…うん」

プリンのカップを握り締めてよたよたと歩いて来る千彩を支えながら、悠真は戸惑った。

昔から、智人は親分肌だった。けれど、妹の面倒を見るのは自分の方が慣れているはずで。そんな自分でさえどうしようかと色々思案するというのに、本当は戸惑っているはずの智人の方がテキパキと事を進めていて。

黙々とプリンを口に運ぶ千彩の横顔を見つめながら気付く。嗚呼、智人は大好きな兄の大切な物を守りたいのだ、と。
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